NHKで放映された韓国ドラマ「チャング ムの誓い」を図書館で借りて、順次観ている。 噂どおり良いドラマで、楽しんでいる。 主人公チャングムは宮廷の料理人から医 者になると聞いている。日本での大河ドラマ （NHK）に相当する番組だと思うが、大河 ドラマではほとんど武士・政治家あるいはそ の周辺が主人公であるのはどういうことな のだろうか。 日本にも料理人や医者等の文化人で大河 ドラマの主人公になりそうな人はいる。例え ば医者では、日本独自の文化が開花した江戸 時代、漢方医・吉益東洞は日本的な漢 方を創成し、鍼医・杉山和一は、管を 使うことで細い鍼を使えるようにし て、中国とは違う日本特有の繊細な鍼 術を生み出した。

「チャングムの誓い」を観て、私は自らの 鍼の道 ． に対する真摯さを再確認する。現在、 まだ私が観ているのは宮廷料理人時代だが、 チャングムの料理に対する真摯さは道 ． を歩 む者全てに通じる。 道 ． とは単に職業というこ とではない。料理への真摯さは格別のものだ。 道 ． に生きている彼女には、そこに人生の中心 軸があって、発見・創造の喜び、そして失敗 の悔しさがある。彼女にとって、俗世間の楽 しみは興味を抱きようがないものである。 チャングムの料理に対する真摯さは、美味 しさや、食べる人の健康を気遣うことだけで なく、料理のメッセージ性ということ にも及んでいる。野苺の砂糖漬けは、 チャングムが死にゆく母に食べさせ たという話によって、その甘酸っぱさ はメッセージを伴って王の口に入り、

『宮廷女官チャングムの誓い』（以下、 『チャングム』と記す）前半で最もドラマチ ックな部分。ハン尚宮（さんぐん）が果敢に 闘い、宮廷における厨房の責任者として、果 敢に活躍する。そしてチャングムとチェ尚宮、 チャングムとハン尚宮、またチャングムとミ ン・ジョンホの過去の因縁が一気に表面化し、 料理とは離れたところで闘いが行われる。ク ミョンのミン・ジョンホへの想い（恋）もか らんでいて、おもしろい。ただ、もう１話ぐ らい、食に絡んだハン尚宮の活躍があって欲 しかった。ハン尚宮は韓国でも人気があった そうだ。

『宮廷女官チャングムの誓い』（以下、『チ ャングム』）、後半に入って、物語の中心軸は 医に移った。前半でも、宮廷の医務官やウン ベクが治療するところがあった。 菜園でウンベクが、毒草を誤って食べた女 官を吐かせるのに手首内側の中心辺りに鍼 をしていた。手の厥陰心包経と言われる経絡 で、胸の下半分辺りに通じる。吐き気がする ような時に使う。胸の下半分辺りの気を動か し、その場所における本来的な働きを 高める。吐き気が止まる場合もあれば、 吐き気が強くなって、吐く場合もある。 この女官にとっては吐くことが必要 であったから、吐いた。

『宮廷女官チャングムの誓い』、チャング ムが流された済州島が倭寇（わこう）に襲わ れた。時々、外国映画では変な侍が登場して、 日本人が馬鹿にされている感じの時がある が、さすが隣の韓国のドラマではそういうこ とはなかった。チャングムは失敗から鍼を打 つことに不安を覚えていて、病にかかった倭 寇の首領に鍼することを拒む。それに 対して倭寇の№２は、「誰にでも最初 はある」と良いことを言っている。チ ャングムは脅されたお蔭で、鍼を打つ ことに踏み切れた。そして成功し、失 敗を克服した。

『宮廷女官チャングムの誓い』の医女修練 の辺り。チャングムは医女修練に合格した。 彼女に厳しく当ったシン教授は、実は彼女に 期待していたのだった。理不尽なもう一人の 教授に落されようとしていた彼女を奇策で 救った。合格発表の後、シン教授が経穴人形 を抱えて部屋に戻ろうとする場面。チャング ムは近づいて、人形を教授の手からそ っと自分の胸に抱える。二人は黙り、 チャングムは教授に寄り添うように 数歩、歩む。――何も語らずとも、二 人の心が通じ合っていることが分か る。とても私が好きな場面である。

『宮廷女官チャングムの誓い』、医女見習 いとして宮廷に入ったチャングムが次々と 活躍し、先輩医女ヨリの恨みを買うところ。 最初の活躍は皇后の脈診であった。 皇后は姙娠していたが、つわりがひどくて 食事できず、体調を崩して、終には流産した。 流産後も回復が悪く、その時のヨリの脈診は 渋（じゅう）脈であった。「川に木が 流れていくようだった」と。渋脈は『切 脈一葦』（せつみゃくいちい）という 古典では「微弱にして粒粒分明ならざ る脈」と説明されている。 一般の人は脈を診るというと、脈拍 を数えるだけと思っている様だが、東 洋医学での脈診はもっと複雑である。

『宮廷女官チャングムの誓い』、ハン・サン グンとチャングムが宮廷から追い出された硫 黄アヒル事件と同じ様に王様が病に伏せ、今 度はクミョンやチェ･サングンが疑われるところ。 今までニコニコしているだけで大した力がな いと思えた長官がそうではなく、チャングム の味方をする。ちなみに長官など内侍府（ね しぶ）の役人は髭がないが、それは宦 官（去勢した男性）であるからだ。 王様は医局長に傷寒症との診断で 治療を受けていたが、なかなか良くな らなかった。王様はよく同じ様に体調 を崩していた。

『宮廷女官チャングムの誓い』（以下、 『チャングム』と記す）、最後の場面。チャ ングムは破水し危険な状態だった妊婦に帝 王切開をして、妊婦も赤ちゃんも救う。「き っとこれから先も、この女人は時代に逆らい 続けるだろう。そして、この女人は時代に問 い続けていくだろう。人の命を救ってなぜい けないかと」というナレーションが流れる。 こうした外科手術がまだ行われていない時 代、腸閉塞だった王の手術は、王自身にも周 囲にも受け入れられなかった。ここで は成し遂げられたわけである。

『宮廷女官チャングムの誓い』では、「医 食同源」という言葉を何度も思い浮かべた人 が多いのではないだろうか。前半、ドラマの 中心軸が〈食〉にあった時は、盛んに食材に ついて「○○の効能がある」「○○に良い」 などの言葉が出てきていた。また明の使者の 食事で、使者が糖尿病であったので、ハン尚 宮やチャングムがご馳走ではなく、質素な野 菜料理を出して、騒動が起きたが、最終的に は使者の体調が良くなり、チャングムの手柄 となった。後半、〈医〉がドラマの中 心軸になった時には、皇太后の脚気に 対して、チャングムが通常の薬方では なく、皇太后の嫌いなニンニクを丸薬 にして食べさせて、快方に向かわせた。